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フョードル・ドストエフスキー
1821-1881 |
1--著名な作品
罪 と 罰 選ばれし人間は罪を犯しても許されるという思想のもと殺人を犯した青年ラスコーリニコフ。自己犠牲の塊であるソーニャという少女との出会いによる、ラスコーリニコフの魂の再生を描く。 悪 霊 様々な思想的エッセンスが詰め込まれた難解な作品。 自ら死ぬとはどういうことか。社会主義思想や無政府主義について。善悪の二元的価値観を喪失したスタヴローギンの恐ろしい罪の告白(発表当時掲載されず)。またステパンの「和解しましょう、和解しましょう」と民衆に叫びかけるシーンは印象的。 白 痴 未読。 愛とは何か、愛するとは何か……というお話、らしいです。 未 成 年 未読。 カラマーゾフ の 兄弟 第一部だけ読了。 晩年のドストエフスキーが全精力を注ぎ込んだ傑作。カラマーゾフ一家の殺人推理劇、愛憎劇、また神の在・不在について登場人物たちの議論を通して語りかける。 悲惨で許しがたい事件がこの世にあるという現実、これをどう見るか。神がいるなら、なぜ神は彼らを救わなかったのか。無神論者の次男イワンと信仰者の三男アリョーシャの議論に興味がつきません。 死 の 家 未読。 ドストエフスキーが思想犯としてシベリアに送られたときの話。 大きな罪を犯した、それでいて善良な人たち。ドストエフスキー作品の原点ともいうべき作家としての体験が詰め込まれている。 2--一作だけお勧めするなら… 罪 と 罰 分量や作品の分かりやすさからいって、最初は『罪と罰』を読むのが一番いいと思います。 3--個人的な総評 ドストエフスキーは19世紀ロシア文学、最大の文豪のひとり。 思想性の強い(そのため日本人になじみやすい)ロシア文学のなかで、とりわけメッセージ性の強い作品を描いています。 その根っこにある思想はトルストイ同様当時のロシアの社会性を強く反映したものとなっています。すなわち善良な貧民が、その貧苦のあまり衝動的に罪を犯してしまうという悲惨な現実……。犯罪行為はそのひと個人の人格、悪性にもとづくものではなく、社会そのものに原因がある! こういう思想に至るのは、当時の政治的人間にとって当然といえたのでしょう。 ドストエフスキーが生きた時代は帝政ロシアの末期。 農奴解放等により社会は変革されていたものの、その変化は抜本的なものではなく、貧富の差はますます拡大するばかり。ドストエフスキーの描く人物は『罪と罰』のラスコーリニコフのように貧しい人物が多く、彼らが貧しさのあまり犯罪を犯し、そののち『良心』というものを神の存在によって感じ取り、救済されるという展開――これがドストエフスキー作品の大まかなモチーフとなっています。 いかにしてロシアの善良な、貧しいひとたちを救うか。 その手段として社会主義や無政府主義もドストエフスキーの脳裏にはもちろんあったのでしょう、それが『悪霊』や『カラマーゾフの兄弟』に描きこまれているというわけですけれども、しかしドストエフスキーはそれら社会主義思想以上の価値を「神」の存在においています。 なぜなら教育を受けていない民衆がそういった主義思想を理解できるはずもなく、また人間の生命を奪う行為の恐ろしさをドストエフスキーは身をもって知っていたからかもしれません(ドストエフスキーは銃殺刑の執行直前に恩赦をもらい、減刑されてシベリアに送られた)。 では、どうやったらロシア国民は幸せになるのか。 自分を苛み、苦しませる現実や問題……。これら全てと和解し、全てを赦し、そして罪を犯さず、罪による苦悩と、罪によって生じる荒廃した精神をまぬかれ、また罪を犯したとしても、政府によって裁かれたとしても「神」に赦されるという思想、価値観。 生きるには過酷すぎる現実のなかで、明日のパンにありつけるかさえわからない極貧の民衆が「幸福」を得るには、ただ神による精神的救済しかない。 ドストエフスキーの悲しいまでのリアリスト的一面を、作品からうかがえるような気がいたします。 ドストエフスキー作品の人物が、いかにして救済されるか。 小林多喜二のプロレタリア小説にも似ておりますが、登場人物たちは現実があまりにも酷すぎて神に縋るより生きる道がない。登場人物たちの必死な「ある観念」を追い求める姿勢に、こういう時代と生活と価値観もあったのかと、まるで奇異な人間を見るかのごとく見てしまいますけれども、それらがあんまり必死だからこそわれわれ読者は150年経ってもドストエフスキーの小説に感動できるのですね! 4--作品短評 罪 と 罰 ……90点! ハマり度 ★5 感動度 ★5 思想的深度 ★3 長さ度 ★3 ドストエフスキー特有の長々とした文体が物語の緊張感をあおります。老婆を殺害するときのラスコーリニコフの心情、殺害現場から逃走するときの動揺と焦り、そののちの憔悴、自首するかどうかの苦悩葛藤と自暴自棄な態度。 綿密な心理描写、決してラスコーリニコフに有利にならない捜査状況等、もはやラスコーリニコフに対して感情移入を妨げるものは一切ありません。 ラスコーリニコフがなぜ自首にいたるのか、なぜ殺害するとき盗んだ金を使わないのか、そして現在所持しているなけなしの金を、父の死に泣いている初対面の娼婦ソーニャになぜすべて渡してしまったのか…… 「僕は君に頭を下げたんじゃない、全人類の苦悩に頭を下げたんだ」 ラスコーリニコフはどうやって救われるのか、ぜひ読みながら考えてほしい一作ですね! 悪 霊 ……83点! ハマり度 ★3 感動度 ★4 思想的深度 ★5 長さ度 ★4 とにかく物語の骨子を掴むのに苦労した覚えがあります。一体誰のどういう物語なのか序盤でいまいち判然としなく、全体的につながりが読みにくい、非常に複雑な作品という印象があります。 ただ個々のシーンは素晴らしいものがあり、『罪と罰』よりも一層深い内容となっています。独自の自殺哲学を有したキリーロフによる自殺の決行シーン、今さっき自分の子供が生まれたばかりの男が暗殺されるシーン、テログループのリーダー格・スタヴローギンの罪の内容……少女を陵辱して自殺に追いやり、しかしそれでも罪を感じることのできない苦悩……またステパン氏の死ぬ間際の息苦しい、必死な、ある人との和解シーン。 各々のシーンがまさしく珠玉の出来となっていて、もう一度読み返すのだったら自分は罪と罰ではなく悪霊を読み返すだろうな、と思います。 「聞いてください、チホン神父。ぼくは自分で自分を赦したい。これがぼくの最大の目的、目的のすべてなのです!」 |
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ゴーゴリ
1809-1852 |
1--著名な作品
死 せ る 魂 「外套」「検察官」「狂人日記」等短編 ディカーニカ近郷夜話 2--一作だけお勧めするなら… 死せる魂…外套もいいのですが、やはりここは一番ゴーゴリらしい死せる魂を。 3--個人的な総評 プーシキンに認められロシア文学の文壇に登場したウクライナ出身の文学者。外国人なのにロシア文学作家として認められたすごい人。ドストエフスキーをして「われわれはゴーゴリの『外套』から出発した」といわしめたリアリズム文学の出発点。晩年、精神をわずらい書きかけの原稿を全て焼却し、悪魔祓いに耐えきれず餓死する。 その作品は純朴かつ激情家たるロシア的性質をよくあらわした、繊細な感情的作品。感激屋のロシア人の滑稽さを分析する客観的視点と、その滑稽さをいとおしみ悲しむ主観的視点を絶妙に配分していて、読む者に不思議な読後感を与える。 4--作品短評 死せる魂 ……80点! ハマり度 ★3 感動度 ★3 思想的深度 ★3 長さ度 ★3 奴隷を買い取るためにチチコフがロシア中を駆け回る。そこで出会う様々なロシア人との悲喜劇。ゴーゴリ作品の集大成ともいうべき長編。傍若無人で感情的にふるまうロシア人の滑稽さと、それに振り回されるチチコフの滑稽さと悲しさ。ゴーゴリの悲しいユーモアが輝く! 外套 ……71点! ハマり度 ★2 感動度 ★2 思想的深度 ★2 長さ度 ★1 下級官吏の冴えない主人公は、その大人しさと要領の悪さからいつも同僚に馬鹿にされている。決して大きな行動はせず、日々慎ましやかに寂しく生きていた主人公は、必要に迫られてついに豪華で立派な「外套」を買う決意をする。「外套」を買うために毎日お金を節約し、そしてようやく「外套」を買ったときに待ち受ける幸福と悲劇……。庶民に対するゴーゴリの絶大な愛情が見受けられる、まさしくゴーゴリ的感性にみちた作品。短編ですし、ゴーゴリはまず「外套」から入るべきかもしれません。 |
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